コラム
キャッシュレス決済で経費を支払った際の会計処理-ポイント利用も踏まえて-
近年、政府が推進していることもあり、PayPayやLINE Pay等のQRコード決済やSuicaや楽天Edy等の非接触型ICカード決済などのキャッシュレス決済が話題を集めています。
消費税増税に伴い景気対策として実施されている「キャッシュレス・消費者還元事業」やQRコード決済各社の大胆なポイント還元により、利用者にとっては利便性だけでなく現金で支払いをするよりもお得になるため、率先して利用したい決済手段です。
キャッシュレス決済はクラウド会計ソフトなどを利用すると、決済サービスと連携して会計処理が簡単に行えるため会社の経費支払方法としてもよく利用されますが、会計処理については若干複雑になります。
そこで今回は、キャッシュレス決済をした際の会計処理について解説していきます。
なお、クレジットカード決済については既によく知られているものであるため当記事では触れません。
目次
1. 電子マネーの種類
会計処理を念頭に置いた電子マネーの分類は、QRコード決済や非接触型ICカード決済などの分類に関わらず、プリペイド方式(事前にチャージした残高から決済する方法)とポストペイ方式(購入金額が後でクレジットカード等を通じて引き落とされる方法)に分かれます。
※以後、QRコード方式と非接触型ICカード方式をまとめて「電子マネー」といいます。
主要なキャッシュレス決済方法一覧サービス名 | 決済方式 |
---|---|
Suica等の交通系IC | プリペイド方式 |
楽天Edy、nanaco、WAON等 | プリペイド方式 |
iD、QUICPay等 | ポストペイ方式 |
PayPay、LINE Pay、楽天Pay等 | 基本的にプリペイド方式 |
一部利用と同時に引き落としがされるリアルタイム方式というものもありますが、ポストペイ方式と同様に事後的に精算されるものと考えて問題ありません。
2. プリペイド方式の会計処理
プリペイド方式の場合、現金等で電子マネーを購入し、その電子マネーと商品を交換するという考え方をします。
この考え方を会計処理に表すと以下のようになります。
時系列 | 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 消費税の処理 |
---|---|---|---|---|---|
電子マネー購入に伴いクレカで1万円入金 (内、デポジット500円) |
電子マネー 預託金 |
9,500 500 |
未払金 ― |
10,000 - |
対象外 |
電子マネーで5,000円の消耗品を購入 | 消耗品費 | 5,000 | 電子マネー | 5,000 | 課税仕入 |
チャージした資産残高の勘定科目は「仮払金」「前払金」「貯蔵品」「現金」なども考えられますが、諸説あるため当記事では「電子マネー」としています。
正直なところ、金額も大きくなりませんし流動資産科目で残高が管理できればどんな勘定科目でも問題ないと思います。
ちなみに、交通系ICをチャージした時に「旅費交通費」にしてしまう意見もありますが、厳密には誤った会計処理になります。
必ず旅費交通費に使われるわけではありませんし、期末に残高として残った部分はその期の費用にならないためです。
3. ポストペイ方式の会計処理
ポストペイ方式の場合、クレジットカードと同様に購入した商品の代金が後から引き落とされる形になります。
ポストペイ方式での会計処理は以下の通りです。
時系列 | 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 消費税の処理 |
---|---|---|---|---|---|
電子マネーで5,000円の消耗品を購入 | 消耗品費 | 5,000 | 未払金-電子マネー | 5,000 | 課税仕入 |
預金から5,000円引き落とし | 未払金-電子マネー | 5,000 | 普通預金 | 5,000 | 対象外 |
クレジットカードと紐づけている場合には、間に[未払金-電子マネー 5,000 / 未払金-クレジットカード 5,000]の会計処理が必要になります。
4. ポイント付与分の会計処理
電子マネー決済を利用すると、チャージ金額や利用金額に対して還元率に応じたポイントが付与されます。
利用者にとってはキャッシュレス決済を利用する大きな誘因となっていますが、ポイントの付与や利用に関して明記された会計処理の方法がないため、ポイント付与時とポイント利用時において複数の考え方が存在します。
そこで、順を追って現在の法令で考えられる会計処理の方法を考察していきます。
4-1. ポイント付与時の会計処理
前提としてポイント付与分を収入と考える説と、ポイントを利用して購入した物の値引きと考える説があります。
後者の場合には、そもそもポイント付与時には会計処理を行わないという結論になりますが、前者の場合ポイント付与時に商品券を貰ったようなものとして収益を計上しなくてはならないのでしょうか。
税務に限った話ですが、ポイント付与時は会計処理の必要はないと考えます。
ポイントを付与した側では、[ポイント引当金繰入 ××円 / ポイント引当金 ××円]という会計処理をしてポイント付与分を費用処理しますが、ここで計上された費用は損金(税務上の費用)になりません。
損金にならない理由としては、税務には債務確定主義という考え方があり、要件の一つである「具体的な給付原因となる事実の発生」がポイント付与時には認められないためです。
これを逆説的に考えると、ポイント付与時は収益を計上しなくていいのではないかと考えられます。
4-2. ポイント利用時の会計処理
上記で紹介した値引と考える説と収入と考える説がありますが、個人的には値引と考える説の会計処理が実務上合理的かと思います。
例として、10,000円の消耗品について付与ポイント3,000円を利用して購入した場合のそれぞれの会計処理を示します。
①値引と考える説の会計処理
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 消費税の処理 |
---|---|---|---|---|
消耗品費 | 7,000 | 電子マネー | 7,000 | 課税仕入 |
②収入と考える説の会計処理
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 消費税の処理 |
---|---|---|---|---|
消耗品費 - |
10,000 - |
電子マネー 雑収入 |
7,000 3,000 |
課税仕入 課税仕入(△) |
会計処理を考える上では消費税の処理も踏まえる必要がありますが、ポイント利用分の購入代金は消費税不課税です。
そのため、収入と考える説によると消耗品費が値引き前の金額で処理されてしまうため、雑収入として処理した金額を課税仕入のマイナスとして処理しなければならず、会計処理上手間がかかってしまいます。
以上のことから、消費税の処理誤りを防止するためにも、値引きと考えてポイント控除後の純額で会計処理をするほうが好ましいのではないでしょうか。
≪参考≫
①ポイントの発生、発行、付与時は不課税
②ポイントの流通(企業間、消費者間、消費者と媒介業者間)では、交換、売買ともに非課税(企業間での新規発行は①の不課税と同取扱い)
③ポイントの利用(消費者と発行企業(提携企業を含む)間)では、
・景品交換は不課税(景品の仕入れは課税取引)
・商品券交換は不課税(商品券利用時は課税取引)
・電子マネー交換は不課税(電子マネー利用時は課税取引)
・現金交換(キャッシュバック)は課税(対価の返還) (提携企業の場合は不課税)
・値引割引(支払代金の控除相殺)は不課税(差額支払金額の対価が課税取引)
④ポイント利用に係る提携企業からの請求等は
・支払側は課税(販売促進費)
・入金側は不課税
⑤ポイントの期末残高は対象外
国税庁論叢58号マイレージサービスに代表されるポイント制に掛かる税務上の取扱い
ちなみに、電子マネー残高にチャージ金額と付与ポイント金額が混在する場合があり、どの部分が付与ポイント利用分か曖昧になってしまいますが、その場合はチャージ金額を超えた時だけポイント利用分と捉えて会計処理すれば問題ありません。
4-3. ポイント利用で固定資産を購入した場合の問題
ポイント利用で減価償却資産を購入した場合、上記2つの説によって会計処理に大きく影響を与えてしまいます。
固定資産の取得価額によって一括償却資産や少額減価償却資産等に該当するかどうかの判断をすることになりますが、値引きと考える説によれば取得価額を低く評価することになり、収入と考える説よりも有利になってしまうからです。
どちらの処理でも取得価額が30万円以上で通常の償却資産になるとしても、取得価額が異なるため毎年の減価償却費の計算に影響してしまいます。
考え方の違いによって利益や税額に与える影響が異なってしまうのは違和感がありますが、現状明確な処理方法が示されていない以上、一度採用した方法を継続適用していれば問題ありません。
まとめ
今回は、最近話題のキャッシュレス決済で経費を支払った際の会計処理をご紹介しました。
電子マネー決済自体の会計処理はそれほど難しいものではありませんが、クレジットカードと紐づけると[預金・クレジットカード・電子マネー]の3者の動きが出てきてしまうため若干煩雑です。
それでも現金支払いに比べると、クラウド会計ソフト等と連携すればほとんど自動で会計処理ができるため格段に楽になります。
スピーディーな決済ができて会計処理も楽にできる決済方法ですが、一つ残念なことがあるとすれば、普及率も高く最も汎用性の高い交通系ICで買い物をすると、明細が「物販」としか表示されず逐一レシートで内容を確認しなくてはいけないことです。
利用内容まで確認出来ればすごくありがたいんですが。。。
最後に、電子マネーの種類は現在乱立状態にありますが、経理処理を考えると決済手段を増やせば増やすほど管理が難しくなります。
利用する決済手段は厳選して極力少なく抑えるようにしましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。 内容についてご不明点等ございましたらお問い合わせフォームよりお問い合わせください。