コラム

【節税】社宅制度のメリットと留意点

法人で所有又は借り上げている物件を役員や従業員に貸与する社宅制度は、役員や従業員の福利厚生の充実になり、従業員募集や雇用の維持において有効になるばかりでなく、一定のルールを守れば同額の給与を支給するよりも手取り金額を増やすことができます

当コラムでは、この社宅制度を導入するにあたって知っておきたいメリットと留意点を解説します。

POINT

  • 賃貸料などの物件に掛かる支出は法人の費用にしつつ、役員と従業員の個人課税や社会保険料を抑えられる
  • 個人課税をされないためには従業員から一定額以上の賃料を受け取る必要がある
  • 非課税売上割合の上昇に注意

1. 社宅のメリット

社宅に類似する制度として従業員の住居費を補助する「住宅手当」がありますが、住宅手当として支給するか社宅として同等の手当を行うかによって会社の税額には影響しません

例として、従業員に住宅手当として5万円支給する場合と賃料10万円の社宅を従業員負担5万円で貸与する場合とでは、会社にとって利益に影響するのは両方5万円であり、税額には影響しないことになります。
※細かい話ですが、社会保険料の料率が変動するため若干影響はします。

ではどこに社宅のメリットがあるかというと、個人に課税される所得税、住民税及び社会保険料を抑制できる部分にあります。

上記の例でいうと、個人の収入総額では両方5万円増加することになりますが、社宅の場合は給与所得として課税されず、また社会保険料算定基礎にも算入されないため、所得税、住民税、社会保険料等が発生しません。

給与から徴収される諸税率を30%と仮定すると、住宅手当は5万円-(5万円×30%)なので、手取りが35,000円になりますが、社宅の場合は5万円がまるまる経済的利益になります。

会社で稼いだ利益を個人で使えるお金にするためには、いずれ何らかの形で個人に支給しなければなりませんが、給与が課税されるのに対して社宅であれば課税されないので会社と個人の税額をトータルで抑えるためには最も有効な手段です。

また、上記で会社の税額には影響しないと記載しましたが、会社側に全くメリットがないわけではなく、社会保険料が減少することによって、折半で会社が負担する社会保険料が減少するメリットがあります。

メリットまとめ

  • 福利厚生の充実によりリクルートや雇用維持などの人事戦略に有効
  • 会社の経費にしつつ、給与として扱われないため税金や社会保険料が発生しない
  • 会社負担分の社会保険料が抑制できる

2. 社宅のデメリット

デメリットはメリットと比べると些細なことですが、以下の点が挙げられます。

  • 会社側では借り上げる際の賃貸契約と貸与する際の社宅契約を管理する必要があるため、手間がかかる
  • 給与支給額を社宅に置き換えると、従業員側では給与額面が減少するため信用力が低下する可能性がある

3. 役員や従業員から徴収する賃貸料の計算

大きなメリットがある社宅制度ですが、導入にあたっては給与課税されないための一定のルールがあります。

役員の場合と使用人(従業員)の場合でルールが異なるので、それぞれ分けて解説します。

3-1. 役員の場合

役員に対して社宅を貸与する場合は、役員から1か月当たり一定額の家賃(以下「賃貸料相当額」といいます。)を受け取っていれば、給与として課税されません。
国税庁タックスアンサー No.2600

住宅の規模によって計算方法が異なるため以下の表に当てはめ、それぞれ①②③の合計が賃貸料相当額になります。

社宅規模社宅条件
建物の固定資産税基準

面積基準

敷地の固定資産税基準
備考
小規模住宅法定耐用年数が30年以下で
床面積が132㎡以下
その年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2%12円×その建物の総床面積㎡÷3.3㎡その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%
法定耐用年数が30年超で
床面積が99㎡以下
上記以外の住宅法定耐用年数が30年以下で
床面積が132㎡超
その年度の建物の固定資産税の課税標準額×12%÷12その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×6%÷12他から借り受けた住宅等を貸与する場合、家賃の50%と、左記計算で算出した金額の多い金額
法定耐用年数が30年超で
床面積が99㎡超
その年度の建物の固定資産税の課税標準額×10%÷12
豪華住宅床面積が240㎡超のもので、諸条件を勘案
(床面積が240㎡以下でも
プール等嗜好性のある設備がある場合は
豪華住宅に該当)
通常支払うべき使用料に相当する額
(実勢価格)

なお、賃貸料相当額より低い家賃を個人負担している場合には、(賃貸料相当額-受け取っている家賃)の金額が給与として課税されます。

3-2. 使用人(従業員)の場合

使用人に対して社宅や寮などを貸与する場合には、使用人から1か月当たり一定額の家賃(以下「賃貸料相当額」といいます。)以上を受け取っていれば給与として課税されません。
国税庁タックスアンサー No.2597

使用人の場合は住宅の規模によって計算方法が異なることはありません。

下記算式の①②③の合計額が賃貸料相当額になります。


建物の固定資産税基準

面積基準

敷地の固定資産税基準
その年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2%12円×その建物の総床面積㎡÷3.3㎡その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%

賃貸料相当額より低い家賃を個人負担している場合には、役員社宅と同様に(賃貸料相当額-受け取っている家賃)の金額が給与として課税されますが、賃貸料相当額の50%以上を個人負担していれば給与として課税されません。

少し理解が難しいと思うので、タックスアンサーの例示を掲載しておきます。

例)賃貸料相当額が1万円の社宅を使用人に貸与した場合
(1) 使用人に無償で貸与する場合には、1万円が給与として課税されます。
(2) 使用人から3千円の家賃を受け取る場合には、賃貸料相当額である1万円と3千円との差額の7千円が給与として課税されます。
(3) 使用人から6千円の家賃を受け取る場合には、6千円は賃貸料相当額である1万円の50%以上ですので、賃貸料相当額である1万円と6千円との差額の4千円は給与として課税されません。

なお、看護師や守衛など、仕事を行う上で勤務場所を離れて住むことが困難な使用人に対して、仕事に従事させる都合上社宅や寮を貸与する場合には、無償で貸与しても給与として課税されない場合があります。

3-3. 固定資産税評価額の資料が得られない場合の対処

社宅が自社所有物件ではない場合、固定資産税評価額は大家さんに通知されるものであるため、大家さんに確認を取らなくてはいけません。

しかし、大家さんにとっては家賃の原価に相当する金額を賃借人に教えることに抵抗感を持つのが普通です。

その場合は、「固定資産課税台帳の閲覧制度」というものがあり、賃借人であれば物件の所在する市町村役所で借りている物件の課税台帳を閲覧することができます。

それでも手間がかかって面倒だという場合は、若干のリスクはありますが賃料の一定割合を個人負担分として計算するしかありません。

上記計算式で賃貸料相当額を算定すると一般的に家賃の30%を超えないことが多いようです。場合によっては10%程度ということもあるようです。

4. 消費税の課税売上割合に注意

消費税課税事業者に関係する部分ですが、役員や従業員から受け取った家賃は非課税売上に該当するため、課税売上割合の計算に影響することに注意が必要です。

特に課税売上高が5憶円以下の会社では課税売上割合が95%未満になると消費税の計算方法が変わり、税負担が大きくなってしまいます。

まとめ

社宅制度は、役員や従業員の福利厚生を整えつつ法人と個人の納税額を総額で減らせる非常にメリットの大きい制度です。

昨今、人手不足で従業員確保が困難になっている状況からも人事戦略として有効な手段ですが、細かい計算や留意点があるためトラブルにならないよう事前に制度をよく理解して導入を検討しましょう。

なお、社会保険や労働保険は税務とは考え方が異なり、保険料算出基礎となる「報酬」に含まれるかどうかは、計算方法が異なるので別途留意が必要です。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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