コラム

【法人設立】失敗しない事業年度の検討のポイント


法人を設立する際に考えることの中で、最も悩ましいのが事業年度を何月から何月までに設定するかということです。

事業年度とは、半永久的に継続する法人の業績や財務状態等を一定期間に区切って計算し、その状況を明らかにするための単位のことで、その最後の月を決算月や決算期などといいます。

事業年度は通常1年間で設定し、設立後は基本的に変更することはありませんが、その期間の設定は事業計画策定や節税対策などにも大きく影響してしまうため、失敗すると後々後悔することになりかねません。

そこで今回は、失敗しないための事業年度検討のポイントを解説します。

『起業を考えたときにすべきこととは?起業前の準備の流れを時系列で解説《後編》』の補足的なコラムになりますので、併せてご覧ください。

POINT

  • 繁忙期が事業年度の前の方に来るようにし決算予測をしやすくする
  • 事業の繁忙期と決算作業の繁忙期が重複しない時期にして負担軽減
  • 決算期から2ヶ月以内に法人税等の納付があるため、納税資金が確保しやすい決算期にする
  • 採用スケジュールを加味する
  • 避けたい決算月は3月と11月
  • 事業年度は変更可能

1.決算予測をしやすい時期にする

飲食業やアパレル業等、1年間の中で売上が増える繁忙期と売上が減る閑散期がある業種もあります。

こういった繁忙期と閑散期の波があるような業種の場合は、繁忙期の結果で1年間の業績が左右されることが多いため、繁忙期を事業年度の前の方に来るように設定することで、早期に決算予測がしやすくなり、様々なメリットがあります。

決算予測早期化メリット

  • 繁忙期以降の残りの期間の予算計画や資金計画の見直しができる
  • 今期の業績を早めに把握できるため、来期の採用計画や営業計画などの様々な計画が立てやすくなる
  • 節税対策や納税資金準備がしやすくなる など

決算間際になって繁忙期が到来するように設定すると、例えば想定以上に繁忙期の業績が悪かった場合、予定していた投資計画を取りやめる、経費予算を削減するなどの修正が難しく、そのまま赤字で決算を迎えるということになりかねません。

節税対策や納税資金についても同様に、想定以上の利益が出た場合、節税手段によっては手続が間に合わない、利益に対する納税資金を確保する時間の余裕がないということもあり得ます。

以上のように、決算予測早期化のメリットは非常に大きいため事業年度を検討する際には最も重視すべき論点になります。

2.事業の繁忙期と決算作業の繁忙期が重複しない時期にする

決算作業は、事業年度終了の少し前から事業年度終了後1~2ヶ月間で行われます。

決算作業の時期になると、在庫の棚卸、現預金や債権債務残高の確認、一年間の会計処理の点検、申告書の作成など会計税務周りの事務作業を一気にやらなくてはいけません。

これらの決算作業と繁忙期の営業活動が同時期になってしまうとそれぞれの業務に割く時間が足りず、営業活動がおろそかになったり、決算申告業務のミスや残業増加などに繋がってしまう恐れがあります。

決算作業は経理や税理士だけでなく、経営者や営業担当にも負担のかかる作業になってしまうため、決算作業をする時期と繁忙期が重複する期間は避けるようにしましょう。

決算作業は毎年必ずしなければいけない業務のため、一度設定してしまうとその後ずっと繁忙期と重なるストレスが続いてしまいます。
ですので、2番目に重視すべき論点だといえます。

3.納税資金が確保しやすい時期にする

法人税や消費税等の法人が納付する税金の多くは事業年度終了後2ヶ月以内に納付する必要があります。

そのため、現預金が月次推移で一時的に減少してしまう特性があるような場合は、その月の2ヶ月前を決算月とすることは避けたほうが好ましいことになります。

現預金が一時的に減少する要因としては、ボーナスの支払い賃貸物件の更新料支払い年単位での仕入や広告宣伝費の支払いなどが考えられます。

この論点は、金融機関からの借入や課税当局との交渉等で対応することもできるため、上記2つの論点よりも優先度は下がります。

4.採用教育スケジュールを加味する

新卒一括採用を計画する場合、人件費予算の土台となる採用教育計画は一般的に4月~3月で策定されます。

採用教育計画により生じる人件費は企業の予算金額の中でも影響が大きくなるため、慎重な計画が要求されますが、事業年度が4月~3月だと事業計画と採用教育計画の期間が一致するので、計画が立てやすいというメリットがあります。

ただし、上述してきた論点に比べると重要性はそこまで高くなく、中小企業で設立後すぐに一括採用を計画することも稀なことから、あまり優先度は高いものではありません。

5.その他参考

この項目は、事業年度決定の際にあまり重要ではないものの、ある程度念頭に置いた方が良いと思われるポイントです。

5-1.法令等改正のタイミング

税制改正や会計基準改正は、その適用開始時期が4月以降に開始する事業年度からというケースが多いため、3月決算にすると対応のための準備期間が短くなる可能性があります。

もし、税制や会計基準改正の影響が大きく、様子見したいという場合には1月や2月を決算月として選択してもいいかもしれません。

5-2.取引先との関係

例えば国や地方公共団体、またその関連団体などの公的機関は4月から3月を会計年度としており、事業を外部委託する際の予算もこの期間で策定されるものがほとんどです。

そのため、公的機関と取引のある企業は同じ期間を事業年度とすることにより、自社の事業計画を策定しやすくなります。

他にも建設業やイベント業などの年度単位で活動するような取引先を多く持つような事業の場合も該当します。

5-3.棚卸資産の推移との関係

事業年度が終了する決算日になると、商品や製品などの在庫数量をカウントする棚卸をしなくてはなりません。

この棚卸は、扱う商品や製品の数が多い業種だとかなりの重労働になり、従業員が通常業務に手一杯で余力がない場合は外注して棚卸をすることもあります。

そのため、商品や製品の数量が少なくなる時期を決算月にして、棚卸をしやすくすることが考えられます。

よくある決算セールは、決算に向けて売上を伸ばすという意図もありますが、在庫を減らして棚卸をしやすくするという目的も多々あります。

5-4.決算日を月末にするかそれ以外の日付にするか

事業年度終了日は必ずしも月末日とする必要はありません。

業界によっては締め日などの都合上、20日を決算日としている場合もあります。

ただし、一般的に仕入などの請求書の締め日は月末にされていることが多く、月の途中を決算日にすると、請求書の金額と決算日までの納品金額が異なり会計処理が煩雑になってしまうため、特別な理由がなければ月末しておくことが無難です。

6.避けたい決算月

事業年度検討のポイントとして最後に、会計事務所目線で避けたい決算月について記載します。

避けたい決算月はずばり3月決算と11月決算です。

6-1.3月決算

3月決算は、設定している法人のボリュームが最も多く、また、申告期限の延長をしていなければ5月までに申告納付となりますが、ゴールデンウィーク休業の影響で営業日が少なくなってしまい、会計事務所にとって繁忙期になりがちです。
3月決算ほどではありませんが、所得税の確定申告時期に当たる2月、3月に申告を迎える12月、1月決算の法人なども、会計事務所にとって準繁忙期になります。

決算申告業務は十分に経験のある人の手で行わざるを得ないため、繁忙期だけ人員を拡充するということも難しく、どうしても時間をかけた対応をすることが難しくなってきます。
事務所によっては手が足りずに、依頼があってもお断りするということもあろうかと思います。

会計事務所のサービスも千差万別で、人気がある対応の良い事務所ほど繁忙期は手が回らないので、良い事務所を選ぶためには3月決算は避けたほうが良いかもしれません。

6-2.11月決算

11月決算は、申告期限の延長申請をしていなければ1月までに申告納付となりますが、決算申告作業をする2か月間に、12月には年末調整、年末年始休業、1月には法定調書提出、償却資産の申告などが重なり営業日が少ない中でバックオフィスの負担が集中してしまいます。

経営者や経理担当は、これらの業務と並行して決算申告業務も進める必要があるため、バックオフィス負担の軽減を考えると極力避けたいところです。

7.事業年度の変更は可能だがデメリットも

事業年度は、設立後でも変更可能ですが、そのために株主総会決議、定款変更、税務署への届出等の事務作業が必要な他、慣れ親しんだ決算月が変わることにより一年間のルーティーンを修正する必要があったり、事業年度間の業績の比較が難しくなるなどのデメリットがあります。

現状の事業年度で、上述してきたような弊害が大きいなら変更することも検討すべきですが、大きな弊害がなければそのままの方が無難かもしれません。

まとめ

最後に余談ですが、決算月は設立してから1年後の月末でないといけないという誤解がよくありますが、設立1年目は中途半端な月数になっても問題ありません。
1月に設立して9月を決算月にしても大丈夫です。

消費税の免税期間をできるだけ伸ばすという趣旨から、このような考えが生じたと思われますが、インボイス制度が導入された場合にはあまり意味がなくなると思います。

事業年度の設定は、その後の経営管理に大きく影響し、一度設定したら気軽に変更するようなものではありません。
法人設立をご検討の場合は、設立前から税理士と相談をして事業年度を検討してみてはいかがでしょうか。

弊事務所でも、起業サポートに力を入れており、法人設立サービス無償提供や、創業融資サポートなどの業務を取り扱っています。
起業を考えた際は、是非ご相談ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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