コラム
【節税】小規模企業共済で貯蓄をしながら節税対策
個人事業主や小規模企業の経営者は、退職金制度がなく老後資金の積立で頭を悩ませていることも多いかと思います。
特に個人事業主は国民年金基金などに加入していないと、年金受給額もサラリーマンと比べて少なくなってしまいます。
そんな悩みを解決してくれるのが、節税をしながら老後資金の積立もできる「小規模企業共済制度」です。
今回は、この小規模企業共済制度の概要とメリットデメリットについて解説します。
POINT
- 個人事業主や小規模企業の経営者が老後の貯蓄をしながら節税できる
- 受け取るときには退職所得や年金所得などの税制優遇が受けられる
- 掛金以上の共済金が貰える
- 低金利で借入ができる
目次
1. 小規模企業共済制度とは
小規模企業共済制度とは、国の機関である中小機構が運営する、個人事業主や小規模企業の役員のための退職金制度です。
掛金は全額個人の所得から控除することができ、受け取れる共済金は退職所得や年金所得扱いになるため高い節税効果があります。
中小機構から入手した書類に必要書類を添付して提出することによって加入できます。
2. 小規模企業共済の加入条件
加入資格は個人事業主又は会社等の役員で、業種ごとに常時使用する従業員数が一定以下の場合に満たせます。
- 建設業、製造業、運輸業、宿泊業・娯楽業、不動産業、農業・・・20人以下
- 卸売業、小売業、サービス業(宿泊業・娯楽業除く)・・・5人以下
- 企業組合、協業組合・・・20人以下
- 農事組合法人・・・20人以下
- 弁護士法人、税理士法人等の士業法人・・・5人以下
サラリーマンの副業として事業主になっている場合などは基本的に加入できませんのでご留意ください。
なお、こちらは加入時の条件ですので上記を満たさなくなっても継続して加入できます。
3. 共済金・解約手当金について
3-1. 共済金・解約手当金の額
まず、小規模企業共済から受け取るものは共済金A、共済金B、準共済金、解約手当金に分かれます。
- 共済金A・・・個人事業の廃止、個人事業主の死亡や会社等の解散など
- 共済金B・・・老齢給付(65歳以上で180ヶ月以上掛金納付の方が請求)や会社等役員の死亡など
- 準共済金・・・法人成りし、役員にならなかったことや役員を退任したなど
- 解約手当金・・・任意解約や12か月以上滞納による強制解約など
どの種類として扱われるかによって下記の例のように共済金・解約手当金の金額が異なります。
掛金納付月数 | 掛金合計 | 共済金A | 共済金B | 準共済金 | 解約手当金 |
---|---|---|---|---|---|
120月 | 1,200,000円 | 1,290,600円 | 1,260,800円 | 1,200,000円 | 掛金月数に応じて掛金合計額の80%~120% |
解約手当金となった場合は、掛金納付月数が 12 か月以上 84 か月未満までは支給率80%、84 か月目から6か月単位で支給率が段階的に増加し、240 か月以上246 か月未満では支給率 100%、以降段階的に増加し、最高で 120%となります。
納付月数が240ヶ月(20年)未満だと、解約手当金は掛金合計額を下回ります。
よく言われる「小規模企業共済の加入期間が20年未満だと元本割れする」というのは、解約手当金になった場合の話で、共済金として扱われる場合は元本割れすることはありません。
ただし、共済金A、共済金Bは納付月数が6ヶ月未満、準共済金、解約手当金は納付月数が12ヶ月未満の場合、掛け捨てになり受け取ることができませんのでご留意ください。
3-2. 共済金・解約手当金の受取方法
共済金・解約手当金の受け取り方法には、「一括受取り」、「分割受取り」および「一括受取りと分割受取りの併用」の3種類あります。
共済金Aと共済金Bは共済金が300万円以上であれば分割受取りを選択でき、330万円以上であれば併用を選択できます。
準共済金と解約手当金は一括受取りしかできません。
後述しますが、受取方法によって税制上の取り扱いが異なり、トータルで見た時の節税金額に影響するため十分な検討が必要になってくると思います。
4. 小規模企業共済のメリット
4-1. 掛金が全額所得から控除できる
掛金は月額1,000円~70,000円の範囲で自由に設定することができ、加入後も増額・減額が可能です。
掛金全額を所得から控除できるので、最大で年間840,000円×税率の税額を減らすことができます。
例えば所得税率が20%の方の場合、住民税率10%と併せて840,000円の30%である252,000円税額が少なくなることになります。
中小機構で加入シミュレーションができますので、ご自身の条件に当てはめて算出してみてください。
法人の役員も加入できますが、あくまでも個人での加入になりますので会社の経費にすることはできず、掛金は個人の所得から控除される形になります。
4-2. 掛金以上の共済金が受け取れる
共済金は基本的に元本割れしないばかりか、廃業や65歳以上の事由で給付を受ける場合は、掛金より多く共済金を受け取ることができます。
よくある誤解ですが、納付月数が20年未満で元本割れするのは任意解約や滞納によって強制解約し解約手当金になった場合の話です。
4-3. 前納すると減額金が発生する
掛金は前納することができ、前納した場合には一定割合(0.09%)の前納減額金が受け取れます。
4-4. 低金利・無担保・無保証人で借入ができる
納付済掛金総額の70%~90%の範囲内で、上限1,000万円(一般貸付の場合2,000万円)の借入ができます。
執筆時現在の金利は一般貸付が1.5%、その他特殊な事由による貸付が0.9%となっています。
4-5. 共済金を受け取る際には税制優遇がある
共済金および解約手当金は、受け取る際の年齢や一括または分割などの受取方法などで税法上の取扱いが異なります。
受取方法 | 税法上の扱い |
---|---|
共済金または準共済金を一括で受け取る場合 | 退職所得扱い |
共済金を分割で受け取る場合 | 公的年金等の雑所得扱い |
共済金を一括・分割併用で受け取る場合 | (一括分)退職所得扱い (分割分)公的年金等の雑所得扱い |
遺族が共済金を受け取る場合(死亡退職金) | (相続税法上)みなし相続財産 |
65歳以上の方が任意解約をするまたは 65歳以上の共同経営者が任意退任をする場合 |
退職所得扱い |
65歳未満の方が任意解約をするまたは 65歳未満の共同経営者が任意退任をする場合 |
一時所得扱い |
12か月以上の掛金未払いによる解約(機構解約)で 解約手当金を受け取る場合 |
一時所得扱い |
(中小機構 『共済金(解約手当金)について』より)
退職所得や公的年金等の雑所得扱いになれば、他の所得と比べて税制優遇があり、税金が少なくなるメリットがあります。
併用が選択できれば、受取額が大きい場合、公的年金は所得から一定額控除する制度があるので、課税されない範囲を分割受取りにし、残りを一括受取りにすることによってトータルの納税額を抑えることができます。
一時所得になった場合、(解約手当金-特別控除50万円)×1/2が所得になり、他の所得と比べると優遇されていますが、金額が大きいと税率が一気に上がってしまうので注意が必要です。
5. 小規模企業共済のデメリット
小規模企業共済のデメリットしては以下の点が挙げられます。
- 掛金納付月数が20年(240月)未満で任意解約や強制解約になる場合、元本割れする可能性がある
- 掛金を支払うことによる資金流出がある
収益性の高い投資案件があるのに小規模企業共済のせいで資金が足りないということになってしまっては元も子もありませんので、余裕のある範囲で掛金を設定しましょう。
6. 小規模企業共済等掛金控除を受ける手続き
小規模企業共済等掛金控除を適用するためには、個人事業主で確定申告をする方の場合、確定申告書の小規模企業共済等掛金控除の欄に必要事項と金額を記載し、確定申告書に「小規模企業共済掛金払込証明書」を添付します。
会社等の役員の場合は、年末調整の際に「給与所得者の保険料控除申告書」に記載および添付して提出し、控除の適用を受けてください。
まとめ
今回は、個人事業主や小規模企業の役員が使える退職金制度「小規模企業共済」についてご紹介しました。
払った時に所得をマイナスして受け取ったときに所得になるという観点では、所得の繰り延べに他なりませんが、現役世代の高い税率で所得控除を受けることができ、また、受け取ったときに適用される税制を考えると納税額を実際に抑えることができる節税策になります。
国が運営しているだけあって生命保険等に比べると税制上かなり優遇されているので、貯蓄と節税を考えると、利用できる経営者は真っ先に検討したい制度の一つです。
個人事業主や小規模企業の経営者は是非加入を検討してみてください。
以前コラムで中小機構が運営している別の共済制度「倒産防止共済制度」もご紹介しているので併せてご覧下さい。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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