コラム

漫画家やプロスポーツ選手の税務-変動所得・臨時所得の平均課税制度

漫画家やプロスポーツ選手は、ヒット作を生み出したり大きな活躍をすると一気に巨額の収入を得られることがあります。

しかし、所得税は年度ごとの所得に応じて超過累進税率が適用されるため、そのままだと臨時的に収入が多い年に高い税率で課税されてしまい、毎年安定して利益を上げる納税者よりも税負担が大きくなってしまいます。

そこで、このように所得の変動が大きい業種について、課税が不公平にならないように税率を緩和する「平均課税制度」が設けられており、この制度によって低い所得税率の適用を受けることができます。

今回は、漫画家やプロスポーツ選手が使える「平均課税制度」についてご紹介します。

POINT

  • 平均課税制度を適用できるのは収入の変動が大きい業種
  • 5分5乗方式による低い税率の適用ができ、税額を大きく減らせる
  • 適用するためには確定申告書に明細を添付する必要がある
  • 適用が漏れていても5年以内であればやり直せる

1. 平均課税制度とは

平均課税制度とは、年度によって収入の変動が大きい業種の所得や臨時の所得があった場合に、超過累進税率を調整し、低い税率で税金計算ができる制度です。

ちなみに、所得税のみの制度であり住民税への適用はありません。

超過累進税率がそのまま適用された場合の税額について、3年間毎年500万円稼ぐ方と、3年間のうち1年だけ1,500万円稼ぐ方で比較してみます。
所得税額は下表に当てはめて算出します。

所得税の速算表(平成27年分以降)
課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え 330万円以下 10% 97,500円
330万円を超え 695万円以下 20% 427,500円
695万円を超え 900万円以下 23% 636,000円
900万円を超え 1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円を超え4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

これによると3年間の累計税額は、前者の場合(500万円×20%-427,500円)×3年=1,717,500円、後者の場合1,500万円×33%-1,536,000円=3,414,000円となり、倍近い税額の差が出てしまいます。

税金計算を1年で区切っているのは国の勝手な都合なので、長期的に収益を上げるような業種にとっては不公平感がありますね。

そこで、この課税計算上の不公平を是正するために、平均課税制度が設けられているというわけです。

2. 適用できる条件

平均課税制度の適用については、所得の種類所得金額について一定の要件があります。

2-1. 条件1:変動所得又は臨時所得であること

平均課税制度を適用する所得は「変動所得」又は「臨時所得」である必要があります。

2-1-1. 変動所得とは

変動所得とは、事業所得や雑所得のうち、以下のものをいいます。

  • 漁獲又はのりの採取から生ずる所得
  • はまち、まだい、ひらめ、かき、うなぎ、ほたて貝又は真珠(真珠貝を含む)の養殖から生ずる所得
  • 原稿又は作曲の報酬に係る所得
  • 著作権の使用料に係る所得

変動所得は限定列挙であり、上記のいずれかでなければなりません。

例えば、漫画家、小説家、フリーライター、音楽家、芸術家、写真家などが当てはまります。

2-1-2. 臨時所得とは

臨時所得とは、事業所得や不動産所得、雑所得のうち、以下の所得やこれらに類する所得をいいます。

  • プロスポーツ選手などが、一時に受ける契約金
    (3年以上の専属契約で、年間報酬の2年分以上であるもの)
  • 不動産賃貸の礼金更新料や、その他様々な権利を他人に使用させることにより一時に受ける権利金や頭金など
    (3年以上の契約で、年間使用料の2年分以上であるもの)
    ※譲渡所得に該当するものは除く
  • 公共事業の施行などに伴い事業を休業や転業、廃業することにより受ける補償金
    (3年以上の期間分の事業の所得などの補償として受けるもの)
  • 鉱害その他の災害により事業などに使用している資産について損害を受けたことにより受ける補償金
    (3年以上の期間分の事業の所得などの補償として受けるもの)

臨時所得は、例示列挙ですので上記に挙げたものの他、性質がほぼ同じと認められるものであれば含めることができます。

2-2. 条件2:その年の変動所得や臨時所得が一定以上であること

以下の要件を満たすことにより、平均課税制度を適用することができます。

  • その年の変動所得が前年と前々年の変動所得の平均を超える場合、その年の変動所得と臨時所得の合計が、その年の総所得金額の20%以上
  • その年の変動所得が前年と前々年の変動所得の平均以下の場合、その年の臨時所得が、その年の総所得金額の20%以上

条文を分かりやすく整理したつもりですが、これでも少しややこしいですね。

一般的に、変動所得と臨時所得の両方があるというケースは少ないと思うので、どちらかしかないという前提で以下のように理解しても良いと思います。

≪変動所得の場合≫

  1. その年の変動所得の金額が前年と前々年の変動所得の平均超
  2. 変動所得がその年の総所得金額の20%以上

≪臨時所得の場合≫

  1. 臨時所得がその年の総所得金額の20%以上

3. 平均課税による納税額の計算方法

3-1. 平均課税の計算概要

条文をそのまま示すと複雑な算式ですが、かみ砕いて言うと変動所得と臨時所得を5分の1にして適用される超過累進税率で税額を算出(5分5乗方式)できるということです。

【計算手順】

(1)調整所得金額に対する税額

  1. (課税総所得金額-平均課税対象金額×4/5)=調整所得金額①
    課税総所得金額≦平均課税対象金額の場合には、課税総所得金額×1/5の金額
    ※平均課税対象金額=前年、前々年の変動所得平均を変動所得と臨時所得の合計から控除した金額
  2. ①×超過累進税率=調整所得金額に対する税額②

(2)特別所得金額に対する税額

  1. 課税総所得金額-①=特別所得金額③
  2. ③×平均税率(②/①)=特別所得に対する税額

(3)合計税額=(1)+(2)

「1. 平均課税制度とは」で挙げた、3年間のうち1年だけ1,500万円稼ぐ方の例に当てはめて税額を計算してみると以下のようになります。

(1)調整所得金額に対する税額
1,500万円×1/5=300万円
300万円×10%-97,500円=202,500円

(2)特別所得金額に対する税額
1,500万円-300万円=1,200万円
1,200万円×202,500円/300万円=810,000円

(3)合計税額
202,500円+810,000円=1,012,500円 ⇒202,500円×5と一致
状況にもよりますが、この例だと結果的に所得を5分の1にした場合の税率で計算した税額の5倍になっています。

このように、平均課税を適用する場合としない場合では、税額が200万円以上異なってくる場合もあります

3-2. 平均課税適用時の必要経費と青色申告特別控除について

平均課税を適用するにあたっては、変動所得や臨時所得以外の所得がある場合、必要経費がどの所得に掛かっているものかどうかを分けなくてはいけません

変動所得等に直接対応するものはそのまま変動所得等の経費として扱い、所得全体に対応するような経費の場合は収入金額の比などで按分計算します。

また、青色申告特別控除の金額についても所得金額の比によって按分する必要があります。

確定申告の時期になってこれらの分類をしようとすると面倒ですので、できれば日々の記帳の中で補助科目などを設けて管理するようにしましょう。

4. 平均課税を適用するために必要な手続き

平均課税を適用するためには変動所得・臨時所得の平均課税の計算書を確定申告書に添付する必要があります。

また、この平均課税は一度適用せずに確定申告をしてしまったとしても、確定申告の期限から5年以内であれば「更正の請求」により後からやり直すことができます
税額影響が大きい制度ですので、適用漏れに気づいた場合は諦めずに税理士に相談してみてください。

まとめ

今回は漫画家やプロスポーツ選手が利用できる変動所得・臨時所得の平均課税制度についてご紹介しました。

この制度があること自体そこまで周知されていないこともあり適用が漏れているケースも多いと思いますが、大幅に税金を少なくすることができる制度ですので、更正の請求ができる期間内に気づいた場合は是非適用をご検討ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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