コラム

【節税】倒産防止共済(経営セーフティ共済)の概要と税務上の留意点

千代田区水道橋の牛久会計事務所です。

事業が軌道に乗り利益が出始めると避けて通れない課題が、安定経営税金対策です。

税金は、売上から原価や経費を差し引いた所得金額に一定率が掛かってきますが、何とかこれを小さくして税金を少なくできないかと考える経営者がほとんどだと思います。
また、利益は出ているがまだ安定しているとは言い切れない状況だと、転ばぬ先の杖を用意しておきたいものです。

そんな2つの課題に同時に対処するために広く利用されているのが、倒産防止共済という制度です。

そこで今回は、節税の定番である倒産防止共済について、制度の概要と適用上の留意点をまとめていきます。

POINT

  • 取引先が倒産した際に、無利子・無担保・無保証人で融資を受けられる制度
  • 掛金全額所得を減少させ、税額を減らすことができる
  • 任意解約ができ、解約手当金がもらえるが収益になる
  • 税制上のメリットを受けるためには、書類の添付が必要

1.倒産防止共済制度の概要

特定の取引先に対する業績の依存度が高い中小企業は、そこが急に倒産したりすると、売上債権が回収できなくなり自社も倒産に追い込まれてしまうことがあります。

この「連鎖倒産」を防止するために、掛金に応じて融資を受けられる制度が「倒産防止共済(経営セーフティ共済)」です。

掛金額の10倍までの融資を受けることができ、さらに支払った掛金は損金または必要経費にすることができるため、税金上のメリットもあります。

1-1.加入条件

加入条件は、1年以上事業を継続している会社または個人で下表に該当する事業者です。

業種 資本金の額または出資の総額 常時使用する従業員数
製造業、建設業、運輸業その他の業種 3億円以下 300人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
小売業 5,000万円以下 50人以下
ゴム製品製造業 3億円以下 900人以下
ソフトウェア業または情報処理サービス業 3億円以下 300人以下
旅館業 5,000万円以下 200人以下

※詳細な加入条件は中小機構のWEBサイトでご確認ください。

1-2.掛金の額と積立限度

掛金は、月額5,000円から20万円までの範囲(5,000 円単位)で自由に選択でき、掛金総額が800万円に達するまで積み立てることができます。

掛金の増減額についても、随時行うことができます。
※減額の場合、事業規模縮小、経営悪化等の一定の条件があるのでご留意ください。

また、掛金を前納することもでき、前納期間が1年以内であるものは、支払った期の損金又は必要経費として算入できます

1-3.取引先が倒産した場合の融資

取引先が倒産した場合に、無利子無担保無保証人で共済金の借入をすることができます。

共済金の借入額は、被害額(回収不能な債権の金額)と掛金総額の10倍に相当する額のいずれか少ない額となります。

返済期間は下表のとおりです。

借入額 返済期間(6か月の据置期間含む)
5,000万円未満 5年
5,000万円以上6,500万円未満 6年
6,500万円以上8,000万円以下 7年

最大の留意点は、借入額の10%が払い込んだ掛金から控除されてしまうことです。
つまり、融資限度額である掛金の10倍を借入してしまうと、積み立てた掛金が全額なくなってしまいます。

後述しますが、共済を解約することで資金を確保することもできるので借入の判断は慎重にしましょう。

1-4.臨時に資金が必要な場合の融資

取引先が倒産していなくても、臨時に事業資金が必要になった場合、低利率無担保無保証人で借入をすることができます。

返済期間は1年で、借入限度額は下表のとおりです。

掛金納付月数 一時貸付金の借入限度額
1か月~11か月 0円
12か月~23か月 掛金総額 × 75% × 95%
24か月~29か月 掛金総額 × 80% × 95%
30か月~35か月 掛金総額 × 85% × 95%
36か月~39か月 掛金総額 × 90% × 95%
40か月以上 掛金総額 × 95% × 95%
掛金総額が800万円の場合 800万円 × 100% × 95%(760万円)

1-5.共済の解約

倒産防止共済はいつでも解約することができ、積み立ててきた掛金額に応じて解約手当金を受け取ることができます。
掛金納付月数が40ヶ月未満の場合、積み立てた金額より手当金が減ってしまいますので注意してください。

掛金納付月数 1.任意解約 2.みなし解約 3.機構解約
1か月~11か月 0% 0% 0%
12か月~23か月 80% 85% 75%
24か月~29か月 85% 90% 80%
30か月~35か月 90% 95% 85%
36か月~39か月 95% 100% 90%
40か月以上 100% 100% 95%

1.任意解約:共済契約者の任意での解約
2.みなし解約:個人事業主の死亡や、法人の解散等によるみなし解約
3.機構解約:1年以上の滞納や貸付に不正行為があった場合などの機構が行う解約

掛金が損金または経費にできる反面、解約手当金は収益になってしまいますので、利益が少ない期に解約するなどの出口戦略を検討しましょう。

2.確定申告の際の留意点

上述したように、安定経営と節税の両方で大きなメリットのある制度ですが、税制面で恩恵を受けるためには確定申告書に一定の書類を添付する必要があります。

書類の添付を忘れると、最悪の場合税務調査で指摘され、追加で納税しなければならないこともあり得るため、税理士任せにするのではなく経営者自身も把握しておきましょう。

2-1.法人の場合

法人の場合、必要な対応は以下の通りです。

  • 別表10(6) 特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書の添付
    ※別表番号は年度によって変わることもあります
  • 適用額明細への記載

2-1-1.特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書の記載

※画像は一部抜粋です

特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書の記載事項は以下の通りです。

  • 基金に係る法人名:独立行政法人中小企業基盤整備機構
  • 基金の名称:中小企業倒産防止共済
  • 当期に支出した負担金等の額:支出額
  • 同上のうち損金の額に算入した金額:支出額

2-1-2.適用額明細書の記載

※画像は一部抜粋です

適用額明細書の記載事項は以下の通りです。

  • 条項:第66条の11第1項
  • 区分番号:00374
  • 適用額:支出額
少し専門的な話ですが、掛金を経費として会計処理すると決算書上利益が減少し、自社の業績把握や銀行などの第三者に対して決算情報を提供する際にマイナスの影響が出てしまいます。
ただし、倒産防止共済の損金算入は損金経理が要件とされていませんので、会計上資産計上しておき、申告書上だけ所得を減算することによって、節税効果を持ちつつ決算書の見栄えをよくすることも可能です。

2-1.個人事業主の場合

個人事業主の場合、必要な対応は以下の通りです。

  • 中小企業倒産防止共済掛金の必要経費算入に関する明細書の添付

明細書の書式は任意ですが、中小機構で下の画像のような様式例を公開しているので参考にしてください。

まとめ

倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、払った時に経費になり、解約手当金は収益になるため、結論から言えば利益の先送りにすぎません

しかしながら、きちんと出口戦略を考えれば、節税しながら安定経営のための基盤づくりができる非常に有効な制度です。
中小企業の場合、所得に対して低い税率と通常税率の段階があるため、上手く活用すれば実際に納税額を減らすこともできます。

一方で、運用にあたっては融資額の10%控除や解約手当金の減少、確定申告書への書類添付など留意しなければならないことがあります。

節税のうたい文句に飛びつかず、事前に制度をよく理解してから加入を検討しましょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。 内容についてご不明点等ございましたらお問い合わせフォームよりお問い合わせください。