コラム

消費税軽減税率導入前に知っておきたい計算特例


千代田区水道橋の牛久会計事務所です。

いよいよ2019年10月以降から軽減税率が導入され、事業者は対応を迫られることとなります。

何が軽減税率の対象になるかは、ニュースなどで多数取り上げられているため、既にある程度把握されていると思いますが、実際に納付する消費税額の計算方法については把握されているでしょうか?

基本的には「受け取った消費税-払った消費税」で計算できますが、軽減税率の導入にあたって一部の中小企業は特例的な計算方法が認められることになります。

計算方法の選択によっては、税負担が減少し節税することができるかもしれません。

そこで今回は、軽減税率導入の前に知っておきたい消費税の計算特例について解説してきます。

POINT

  • 特例が適用できるのは前々事業年度(基準期間)の課税売上高が5,000万円以下の事業者
  • 売上税額の特例と仕入税額の特例がある
    
    

1.消費税計算特例の適用対象事業者

国内において行った課税資産の譲渡等の税込価額又は課税仕入れに係る支払対価の額等を税率の異なるごとに区分して合計することにつき困難な事情がある中小事業者(基準期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者)については、税額計算の特例を用いて計算することができます。

上記の”困難な事情”については、困難の度合いを問わないこととされているため、事業主が主観で少しでも困難と感じれば”困難な事情”に該当するということになります。

つまり、実質的には基準期間の課税売上高が5,000万円以下であれば計算特例が適用できると考えられます。

2.売上税額の計算特例

売上税額の特例には、以下の3つがあります。
なお、特例が適用できるのは、2023年9月までの予定です。

売上税額計算特例

  1. 卸売業者と小売業者のみが使える仕入税率の割合で計算する方法(小売等軽減仕入割合計算)
  2. 10日間の売上高の税率の割合で計算する方法(10営業日軽減売上割合計算)
  3. 軽減売上割合を50%として計算する方法(50%軽減売上割合計算)

特例対象事業者は上記いずれかの方法で軽減税率対象課税売上高を算定できますが、事務上の手間と税額の有利不利の観点から適切な方法を選択しましょう。

軽減対象の課税売上を大きくできる方が、税額上有利になります。

2-1.仕入税率の割合で計算する方法

仕入に含まれる標準税率と軽減税率の割合から、売上に含まれる標準税率と軽減税率の消費税額を算定する方法です。

卸売業又は小売業のみに適用できますが、他の業種も営んでいると計算が少し複雑になるため、ここでの説明は省略します。

細かい適用条件をまとめると以下の通りです。

  • 仕入を税率ごとに管理できる
  • 卸売業又は小売業である
  • 簡易課税制度を適用していない

計算の流れは以下の通りですが、結果的な納付税額のイメージとしては「(課税売上高-課税仕入高)×仕入平均税率になります。
※仕入平均税率=仕入にかかる消費税額合計÷課税仕入額合計(税抜)

  1. 課税仕入合計のうち、軽減税率対象の課税仕入が占める割合を算定する(小売等軽減仕入割合)
  2. 小売等軽減仕入割合を課税売上高合計に乗じて、軽減税率対象の課税売上高を算定する
  3. 2で求めた金額を課税売上高合計から控除して、標準税率対象の課税売上高を算定する
  4. それぞれの課税売上高に各税率を乗じて、課税売上に係る消費税額を算定する

課税仕入から受け取った消費税を逆算する方法なので、売上よりも仕入の軽減税率割合が大きい事業者が有利な計算方法となります。

2-2.10日間の売上高の税率の割合で計算する方法

通常の連続する任意の10営業日の課税売上に含まれる標準税率と軽減税率の割合から、課税期間全体の標準税率と軽減税率の消費税額を算定する方法です。

こちらは業種に制限がなく、特例適用対象事業者であれば全ての事業者が適用できます。

また、簡易課税制度との併用も可能です。

計算の流れは以下の通りです。

  1. 任意の10営業日の課税売上高を抽出する
  2. 抽出した課税売上高から軽減税率の割合を算定する
  3. 2で求めた軽減税率割合を課税売上高合計に乗じて、軽減税率対象の課税売上高を算定する
  4. 3で求めた金額を課税売上高合計から控除して、標準税率対象の課税売上高を算定する
  5. それぞれの課税売上高に各税率を乗じて、課税売上に係る消費税額を算定する

ここでの留意点は通常の営業日を算定基礎にしなければならないことです。
例えば特定商品のセール期間中などの特殊な営業日は算定基礎から除かなければなりません。

通常の営業日で軽減税率の課税売上が多くなるような場合には、有利になるケースもあるかもしれません。

2-3.軽減売上割合を50%として計算する方法

軽減税率の課税売上を全体の50%と見なして計算する方法です。

こちらも業種に制限はありません。簡易課税との併用も可能です。

計算の流れについては、読んで字のごとくのため省略します。

留意点は、課税売上のうち軽減対象資産の課税売上がおおむね50%以上である事業者が対象であるということです。
そもそも軽減税率の区分計算が困難であることが前提とされていますが、おおむね50%以上を要件としているのはなぜでしょうか。ぼかした表現になっているので適用可否の検討は慎重にしましょう。

軽減税率の売上が50%を上回る場合は、上記2つのいずれかを選択する方が有利になります。

3.仕入税額の計算特例

仕入税額の計算特例には以下の2つがあります。

仕入税額計算特例

  1. 卸売業者と小売業者のみが使える売上税率の割合で計算する方法(小売等軽減売上割合計算)
  2. 簡易課税制度選択届出期限の特例

こちらは売上税額の計算と反対に、軽減対象の課税仕入を小さくできる方が、税額上有利になります。

適用対象期間は2020年9月30日が属する課税期間の末日までとなっており、売上の特例より期間が短くなっているので注意が必要です。
※属する課税期間の末日までというのは、その事業年度いっぱいまでは適用OKということで、売上税額の適用期間と微妙に異なります。

3-1.売上税率の割合で計算する方法

売上に含まれる標準税率と軽減税率の割合から、仕入に含まれる標準税率と軽減税率の消費税額を算定する方法です。

上記2-1で解説した計算特例の仕入版になります。

細かい適用条件をまとめると以下の通りです。

  • 売上を税率ごとに管理できる
  • 卸売業又は小売業である
  • 簡易課税制度を適用していない

計算の流れについては2-1の計算を売上に置き換えるだけなので省略しますが、結果的な納付税額のイメージとしては「(課税売上高-課税仕入高)×売上平均税率になります。
※売上平均税率=売上にかかる消費税額合計÷課税売上額合計(税抜)

課税売上から払った消費税を逆算する方法なので、仕入よりも売上の軽減税率割合が小さい事業者が有利な計算方法となります。

3-2.簡易課税制度(届出期限の特例)

簡易課税制度自体は、仕入税額を簡便に「売上税額×みなし仕入率」で計算する方法です。
要するに、納付税額が「売上税額×(1-みなし仕入率)」になります。
みなし仕入率は業種によって40%~90%で設定されています。

計算方法自体は既存のものですが、特例により「簡易課税制度選択届出書」の提出期限が変わります。

  • 原則:課税期間が開始する前まで
  • 特例:適用を受けたい課税期間の末日まで

上記計算によると、実際の仕入率がみなし仕入率より大きい場合、余計に納税してしまうため、原則では課税期間開始前までに将来の仕入税額の予測に基づいた有利不利判定をしておく必要がありました。

特例では、課税期間末日までに提出すればいいので、ある程度実績を加味して有利不利判定をすることができます。

まとめ

軽減税率導入に伴って、基準期間(前々事業年度)の売上高が5,000万円以下の場合、下表の売上税額に関する特例と仕入税額に関する特例が設けられています。

軽減税率導入後の特例一覧
売上税額の特例仕入税額の特例
小売等軽減仕入割合計算小売等軽減売上割合計算
10営業日軽減売上割合計算簡易課税(届出期限)
50%軽減売上割合計算

趣旨としては、複雑になる消費税の計算について経過措置として簡便的にするというものですが、実際には特例の選択によって有利にもなり不利にもなります。

ここで説明しきれない細かい規定もありますので、適用について迷ってしまった場合は、税理士に相談してしまうのが良いでしょう。

まずは概要を把握し、消費税増税に備えていきましょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。 内容についてご不明点等ございましたらお問い合わせフォームよりお問い合わせください。